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そして、その夜。

「準備はこれでいいだろう」

 草木も眠る丑三時、フロート・シティの校外の岩場に俺はいた。以前は採石所として重用されていたが、作業員の一人が精霊魔術――確か、〈風撃突貫槍(エアクラッシュ・ジャベリン)〉を暴発させて地盤・岩盤が崩落。犠牲者が出ないうちに引き払われた場所だ。俺がそんなところで何をやっているのか、それは間もなく分かるだろう。

 俺は足下に描かれた奇怪な文様の前で足を止める。この地面に描かれた模様は〈魔召喚陣(デモン・サークル)〉。裏社会で生まれ、発展している〈召喚術〉で用いられる召喚陣の一つだ。俺はその陣の前で必要な呪文を唱え、それに鼓動するように陣から鈍い光りが段々と溢れていった…。そして、俺は呪文の終詩をつむぐ。

――〈魔族召喚(サモン・デモン)〉

 そして、〈魔召喚陣〉から俺の最も忌み嫌うもの、汚らわしいバケモノ――魔族が姿を現し―――

「やあ☆ 呼んだかい、ハニー!」
「ぐあっ!?」
どうやら、前方の召喚陣から姿を現しつつあったエビルデーモンに気を取られている隙に、
突如背後に出現した何者かの攻撃を受けたらしい。が…
「……………スマン、何だお前は?」
思わずゼブルは、わが目を疑った。
その襲撃者は、さしものゼブルでさえ、思わずそう言いたくなるような姿をしていた。
『おっと、これはとんだご無礼をしてしまったようだね☆ アイアムソーリー。お詫びにこの僕のナイスフェイバリットなボディを好きなだけ見るといいよ。さあ!僕のこの肉体の美を君のつぶらな瞳に焼き付けたまえぇ~☆』
それは、なんとも中途半端…というか、魔族の異常な容姿に慣れているゼブルをもってしても、それは理解不能な容姿だった。
人間の体に猛禽の足、そして両腕は翼となっている。見た感じ、伝承に出てくるハーピィそのものだが、頭髪は蜂蜜をぶちまけた様な金のロン毛、男のような、女のふりをした男のような、色白の目鼻立ちの整った一般に美形と称させるその顔立ち、そしてその上半身の、腕に当たる翼を除いて胸から上以外すべてけばけばしいピンク色の羽毛で覆われているのが異彩を放っていた。
それで声は高周波…というかもう、頭が割れるかというくらいのキンキン声で、のどが張り裂けんばかりの大声。

「ぐぅぅぅ………それで、お前は一体何なんだ!!」
思わず両手で耳を塞ぎながら、ゼブルは問いかける。
『よっくぞ聞いてくれましたぁぁぁぁぁぁ!!』
「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!?叫ぶのをやめろぉぉぉ!!」
理解不能な化け物の声が俺の脳を揺さぶる。つーか調子に乗って耳元で大声を出すんじゃあねえ!
『それじゃあ、リクエストにお答えしてボクの十八番から!』
「ぁぁぁぁぁぁああああああ!!」
その時、頭の中で何かが弾けた気がした。

――全てだ…

 全て…

――腐りきった魔族も、愚図な偽善者の神族も、そしてそれらを生み出した界王(ワイズマン)も――

「――そして、それらを認めるこの世界の有り様も、全てだ!!手始めにこの目の前にいるクソ野郎をぶち殺す!!」
なんだか重要なプロセスをかなりすっ飛ばしたような気がしないでもないが、ともかくも俺は…

…目の前のふざけた馬鹿を睨みつけた。

***
この日、世界にまた一つ、新たな魔術が生を受けた…

「俺は、魔族を認めない……」

 それは、まだ名も無き黒い焔…

「俺は、神族を認めない……」

 使い手の心に宿る、禍々しき憎悪の投影…

「そして、それらを創った界王――それを認める世界を認めない!!」

 使い手の目に映る世界を焼き尽くす、はずの焔…

「全てだ……」

 下級魔族…なのかよくわからない名もなき魔族を刹那に焼き滅ぼし、そして岩をも溶かしながら燃え続けるはずのその焔は…

「全て……全て焼き尽くしてやぐはぁ!」
『そこ!うるさい!観客は黙ってボクの歌を聴く!!』

 重要なプロセスをすっ飛ばしたためか、はたまたそうなる運命だったのか。焔はあっけなくかき消され。

『さあ、まだまだいくよー☆夜明けまでフィーバーだ!』
「や、やめ…やめてくれぇぇぇぇぇぇぇ!!!」

かくして、黒き焔を従えた修羅はピンクの歌うだけしか能のないけばけばしいハーピィに足蹴にされ、三日三晩、そのカラオケに付き合わされたのであった。
これもまた、ゼブルが歩む、一つの終焉……なのかもしれない。
(完)

<願いの行方、黒き焔IF:「もしハーピィがこんなだったら」>
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